研究活動

1.脂質メディエーターの高感度一斉定量解析技術の開発と応用

プロスタグランジンやロイコトリエンなどのエイコサノイド(アラキドン酸代謝物)に代表される脂肪酸系の生理活性脂質、血小板活性化因子(PAF)に代表されるリゾリン脂質系生理活性脂質など、多数の脂質メディエーターが疾患や生理に関わる分子として注目されています。疾患等のメカニズムの研究において、既知の脂質メディエーター群の包括的定量解析は仮説に基づかない発見的手法として有効であると同時に、脂質メディエーター群の量的なバランス「定量的脂質メディエータープロファイル」が、病態を特徴づけるパラメタとして有用です。私たちはこれまでLC-MS法による脂質メディエーターの高感度一斉定量法を独自に開発してきましたが、さらに高感度に、より多くの成分を、より短時間で一斉定量解析することにより、大規模臨床検体解析やハイスループットスクリーニングに対応可能な技術として確立することを目指します。

2.脂質バイオマーカー探索法の開発と応用

LC-MS法による未知の生理活性脂質や脂質バイオマーカー探索においては、クロマトグラフィー手法による脂質分離と、質量分析計による検出~同定解析(MSn解析、精密質量分析、等)を高度に融合させる必要があります。分析装置メーカーとの協働により、脂質のクロマトグラフィー分離の抱える問題点(多数の分離困難な脂質が存在)の解決をはかると同時に、LC-MSにおける検体間の差分解析および特徴抽出技術の開発、データベースとリンクした測定システムの構築を目指します。

3.臨床検体からの脂質解析基盤技術の開発と応用

血液、尿、便、バイオプシー試料などのヒト臨床検体を対象としたリピドミクス解析は、動物実験と比べて個人差によるデータのばらつきが大きく、試料の採取・保存の条件が必ずしもリピドミクス解析に最適化されていないことが問題です。我々は、リピドミクス解析に供する臨床試料の取り扱い技術を開発し、実用性の高いリピドミクス解析手法の創出に取り組みます。

4.脂質代謝解析法の開発

シンプルなリピドミクス解析により膨大な脂質プロファイルデータが得られますが、それだけでは脂質代謝経路(パスウェイ)の状態を知るには不十分です。代謝流量(生成・分解の速度)の変化が必ずしも代謝物の静的な量に反映されないためです。この問題を解決するために、安定同位体を用いたメタボリックラベリング法を細胞や個体のリピドミクス解析に応用するための技術基盤の開発に取り組みます。

5.マウス疾患モデルを用いた脂質バイオマーカー/脂質メディエーター探索

生活習慣病を含む各種疾患のマウスモデルの解析に最新のリピドミクス技術を応用して、脂質バイオマーカー探索を行います。研究協力講座の所有する各種遺伝子欠損マウス、遺伝子導入マウスを用いた比較解析も併せて実施することで、重要な脂質マーカー、脂質メディエーター、および脂質代謝プロファイルの発見を目指します。

6.新規脂質メディエーター代謝経路の探索

これまで、脂質メディエーターの代謝は、産生酵素や分解酵素の研究により主要な経路が明らかにされていますが、生体内には、組織や細胞種に特異的な脂質メディエーター代謝経路が存在する可能性があります。実際、私たちは、遺伝子欠損マウスの解析から従来の知見とは異なる新たな脂質メディエーターの産生経路の存在を示唆するデータを得ています(未発表)。培養細胞や動物モデルに対し、新たなリピドミクス技術を用いることで、新規脂質代謝経路の存在とその意義を明らかにします。

7.マラリア原虫のタンパク質輸送機構に関連する脂質代謝の解明(徳舛富由樹・挑戦的萌芽研究)

マラリアは2~3億人の患者を発生させ、627 000人/年の死亡者を出す感染症です。アピコンプレクサに属するマラリア原虫は、その赤血球ステージ(赤内型)において赤血球内に侵入し、寄生胞膜と呼ばれる赤血球由来の膜に包まれながら、独自の成長環境を形成します。ホストである感染赤血球の細胞質には、寄生虫由来のタンパク質を赤血球膜まで輸送する上で必須な膜システムが構築され、この膜の化学的・物理化学的性質を解明することは坑マラリア薬の開発へ重要なヒントを与えると期待されています。我々は、脂質分子プロファイリングと高解像度バイオイメージング、生物物理学的アプローチを組み合わせ、生化学的に解明することが困難な寄生虫タンパク質輸送に関わる膜システムの形成機構と、それらに依存する寄生虫タンパク質の分子局在のバイオロジーを解明します。
(この研究は東京大学研究倫理委員会の審査を受け、その承認を受け実施されます。研究に使用する血液は、日本赤十字社より承認された研究課題に基づき供与されている残存血液(臨床用の血液製剤として使用しない、またはできないもの)で、匿名化されており、個人の特定はできません。この血液を使用して得られた研究結果については、学会発表、論文、当ホームページで発表していく予定です。連絡先:03-5841-3540 徳舛)

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